Home arrow Alumni Blog arrow 赤木研を巣立って19年 ~現在の抱負と後輩への期待~
赤木研を巣立って19年 ~現在の抱負と後輩への期待~
2014/02/20 Thursday 12:22:31 JST

 

国土交通省 国土技術政策総合研究所

河川研究部 河川研究室 主任研究官 板垣 修 

 

1.現在の所属の国総研とは

 私が現在所属している国土技術政策総合研究所は略称「国総研(こくそうけん)」と呼ばれている国土交通省の研究機関です。国総研は住宅・社会資本分野で唯一の国の研究機関として平成134月に設立され、国土交通省の行政部門と一体となった技術政策研究を実施しています。職員数(平成25年度)は約360名で、うち約290名が茨城県つくば市内の庁舎(旭(あさひ)、立原(たちはら))、残り約70名が神奈川県横須賀市内の庁舎勤務です。私が勤務している旭庁舎の敷地内には独立行政法人の土木研究所があり、つくば市内には筑波山(写真)があります。

 現在でもつくば駅からタクシーに乗る際に「国総研まで」と言うと分からないことがあり、「土木研究所です」と言うと分かります。国総研は旧土木研究所の敷地に設置されました。なお、つくば市内には「産総研(さんそうけん)」があり、同研究所は国総研よりも有名なことが多いので、「国総研」で分かったらしい運転手さんには「産総研ではありません」と念を押すと良い場合があります。

2.赤木研配属の頃の思い出

 赤木研に配属になったのは平成4年です。同年は春休み(3年生の)に寝袋を持って南・西九州を自転車で一人旅したのが思い出されます。この旅行から戻り4月より4年生になり赤木研を第一希望とし配属になりました。一人旅で成長してから選んだのですから良い選択であったと思います。なおこの自転車旅行は印象深く鹿児島県の頴娃町(えいちょう)郡(こおり)地区でお世話になりました公民館長の孫とその後結婚しました。


3. 赤木研での3年弱の思い出

 今となっては全て良い思い出です。与えられた研究課題にもっと真面目に取り組めば良かったと思います。まだ研究の意義を理解しておりませんでした。修士2年の後半は赤木先生がケンブリッジ大学へ行ってしまい、好きなことができると喜んでおりましたが、そうでもなかった面もあると今では思えます。


4.現在に至るまで

平成7年に赤木研を修了し建設省に入りましたが、機会を見つけて研究室にお邪魔しました。就職後訪問した際の印象は職場よりも格段に「礼儀正しい」「品がある」人が多いことで誇りに思いました。

7年から16年までの9年間は霞が関の本省と新潟県内の道路の出張所と河川の事務所で行政を経験し、その後3年間国総研河川研究部で河川の調査・研究に従事し、その後3年と少し中東のシリア・アラブ共和国で水資源政策アドバイザー(JICA長期専門家)を経験し、226月に帰国し現在に至っています。


5.気候変動下の洪水リスク低減に向けた研究

 地球温暖化・気候変動の影響により豪雨・洪水被害が増大する(している)のではないかとの新聞記事などを目にすると思います。私は気候変動下の洪水リスク(ここでの「リスク」とは「洪水氾濫の発生確率」×「洪水氾濫した場合に見込まれる被害」と定義します)の低減方策について研究しています。

国総研内に平成21年より横断組織として設置されている気候変動適応研究本部の定期的な会合で研究成果を報告し関係者と議論し、適宜本省の関係部局に報告し意見交換等を行っています。同本部では258月に中間報告書を公表しています(http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0749.htm)。

 現在の科学技術では避けることのできない不確実性を考慮しつつ具体的な洪水リスクの分析・低減手法を社会・経済・科学技術・気候等の変化に応じて検討し、社会の洪水リスクの低減を図るものです。海外の先進事例の調査・分析も重要で、web上で継続的に情報を収集するとともに、適宜海外の政府機関等を訪問し詳細の確認等を行っています。最近では平成261月に英国の環境庁(洪水対策等の実施機関)等を訪問調査しました。英国の技術者、雰囲気にとても良い印象を持ち、赤木先生が英国を礼賛されていたことが思い出されました。 


6.現在の抱負と後輩への期待

 上記英国出張中は朝の日差しの美しさと整然とした土地利用が印象的でした。住宅等の場所と緑地が土地の起伏に応じて明確に分けられているように見えました。これは美しいだけでなく洪水リスク低減の観点からも適正なものです。

同出張中英国では洪水が続いていました(現在も続いており数百年振りの大雨との報道も目にします)。移動中の車窓から河川沿いの低地・緑地が浸水しているのが見えましたが、茶色い水に覆われているのではなく草地に透明な水がたまっているように見えました。

 英国の土木技術者に聞いても今回の河川からの洪水による「家屋、人的被害はほぼない」(聞き取り調査時)とのことで、河川からの洪水による影響が日本と全く異なり、適正な土地利用のたまものに見えました(現在は家屋の浸水被害の報道を目にします)。浸水しにくい所に家屋を設けることが洪水被害の低減につながっているようです。

洪水リスクに応じた土地利用制限は短期的には不便でしょうが洪水被害を減らし社会の富が長期的に増加する可能性を高めるでしょう。洪水リスクの低減につながる土地利用を推進するには洪水リスク情報を社会で共有する必要があり、関連する研究・施策の推進が重要です。日常生活における便利さの追求とまれな洪水における被害低減等の多くの観点から最適な土地利用を検討する必要がありますが、どこまで洪水リスクの低減を優先するかは当該社会の伝統・文化等に根ざした価値観によるでしょう。ただし、社会、経済、科学技術、気候等は時代とともに変化するものでしょうから、目先の利益を過度に優先し社会の富を洪水等で過度に失う損な状況に陥っていないかどうか適宜吟味することが必要でしょう。

 ところで「物質的には豊かになったが精神的には貧しくなったのではないか」と何度も聞くように思われます。これは「物質的に豊かになると精神的に貧しくなる」「物質的豊かさと精神的豊かさを両立させるのは難しい」との趣旨であると私は思っておりました。しかし英国出張から戻ってからは「潜在的価値を含めた社会の富(社会がよって立つ自然環境の豊かさを含む。以下同様)が減ったから精神的にも貧しくなった」可能性があるのではないかと考えています。なお、富が減少したからと言って必ずしも精神的に貧しくなるとは限らないことを認めた上でここでは述べます。

 例えば、先祖代々山を受け継いできた地主の子孫がいたとして、受け継いだ山の潜在的価値を理解できず、自分の知識で金額換算できる部分(短期的経済価値)だけの価格に多少上乗せした額で山を乱開発業者に売り、当人としては大きな現金収入を得て「経済的には豊かになったが、本当に豊かになった気がしない」と感じている状態に似た状況が我が国及び世界で生じていないのでしょうか。

 もし我が国及び世界が上記のような「社会の富が減ったから精神的にも貧しくなった」のであれば、社会の富を増やすことにより精神的な豊かさを増やせる可能性があるのではないでしょうか。課題は潜在的価値を含めた社会の富をいかに正確に認識できるかにあり、これまで明示してこなかった(明示できなかった)潜在的価値を明示し社会の富の増大を図るとともに同喪失を防ぐことが重要であり、潜在的な洪水被害等のリスクの明示と同リスクの低減施策の推進はその重要な要素であると考えます。

社会、経済、科学技術、更には気候の変化(予測を含む)を踏まえ、社会の富の喪失を防ぎ精神面を含め社会を豊かにすることにつながる方策の研究・実施に後輩の皆さんが邁進されることを期待しています。

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写真 筑波山(近くの宝鏡山(ほうきょうさん)山頂より)

 


最終更新日 ( 2014/02/20 Thursday 14:36:29 JST )
 
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